こんにちは。今回はKYKEYのAROMA GLASS STILLをレビューしていこうと思います。普段ビールのことしか書いていない当ブログですが、私はグラスオタクでもあります。ウイスキーオタクでは無く、グラスオタク。この記事を読む上で大切なことなので覚えてもらえると助かります。
グラスオタクである証拠はこちらの写真になります。
ギャルゲヒロインの身長比較のような画像になってしまいましたが、このような感じでいっぱいグラスを持っています。ここで大切なのは右端のグラスで、こちらのグラスは「リーデル ソムリエ コニャックXO」です。
だからどうしたと思う方が大半だと思われますが、これは同志であるグラスオタクに向けたメッセージです。それ以外の方は2万円ぐらいする高額のグラスを持っているバカだということを知ってもらえればと思います。
それでは本題に入っていきましょう。
概要
価格(税込):6,380円
重さ:88g
容量:268ml(推定値)
リムの厚さ:1mmぐらい
制作:木村硝子店(具体的な工房は不明)
素材:不明(クリスタルガラスだと思う)
外観:大き目のボウル、少しすぼんでいる飲み口
外観から分かること:スワリングによって開いた香りを濃縮させるような形状をしている
公式コメント(KYKEY公式サイトより一部抜粋)
※公式コメントが長すぎるので抜粋とさせていただきます。すごく愛を感じるので是非読んでみてください。
AROMA GLASS BASICの対抗馬。
第一弾の BASIC は、その名の通り幅広いウイスキーに使用できる万能モデルでした。
香味が開きやすい広い口径と、なめらかな口当たりを実現したリム。甘味、酸味、塩味、苦味、ボディをバランスよく味わえる特性を有していました。
しかし、口径の広がりは、時間経過で香味を丸くしすぎるきらいがあります。
何を飲んでもおいしいと感じてしまう。逆を言えば個性が拾いにくい。繊細な味わいのウイスキーはどうしても水っぽくなるのが早い。
その解決策を模索すること二年強。
長き時を経て完成したのが、真逆の特性を持つ「AROMA GLASS -STILL-」です。
色々なウイスキーを試す
色々なウイスキーを試してみました。ただ飲むだけだと面白くないので「リーデル ソムリエ コニャックXO」も一緒に使用して比較してみます。
タリスカー18年 OB 45.8%(旧ラベル)
コニャックXO:香りはスモーク、潮に杏。味は杏の甘さから始まりヨードと潮が出てくる。
STILL:いつものメンツに追加でオレンジピールを少し感じる。プラムもいる。味わいも甘さがより強調された形。杏の他にパインもいるかなぁ。
キルホーマン シングルカスク 2009 10年 for Bar 鶴亀 53.6%
コニャックXO:いつも通りの麦カスタードなピートで美味しい味、それ以上でもそれ以下でもない。
STILL:ガツンとくるなぁ、思わずむせちまったぜ。味わいもいつも通りのカスタードピート。でも飲み終わったあとの残り香はいい感じ。
ジョニウォーカー ブラックラベル 70年代流通品 40%(金キャップ)
コニャックXO:オールドの香り、麦の甘さ、シェリー由来のプルーンをキレイに拾える。
STILL:香りの濃縮を感じる、リーデルにはない柑橘がいるような。味としては麦の甘さが相対的に少し控えめになる。
まとめ
全体を通して香りをホールドして濃縮してるような印象を受けました。それ故に若いカスクストレングスのウイスキーではむせかえるほど強力なアルコールがやってきます。逆に十分に熟成されていて度数が少ないウイスキー、オールドウイスキーではコニャックXOでは拾えなかった香りも拾うことが出来ました。ゆえに香りが複雑でアルコールの刺激が穏やかなウイスキーに適してると言えます。
コニャックXOと比較した時に気になるは口当たりと飲みにくさでしょうか。コニャックXOは圧倒的なリムの薄さで口当たりの良さを、ストレートな飲み口のおかげで飲みやすさを実現しています。その代わりにSTILLは香りのホールド力が優れているので、形状の違いによるトレードオフという認識でいいでしょう。いうなればコニャックXOはお酒を素直に味わうグラスで、STILLはお酒の奥に眠る個性を引き出すグラスです。
他のお酒も試す
前述の検証により「香りをホールドして濃縮する」特性が分かりました。よって他のお酒でも行けるのではないかという仮説が浮上してきたので、今回は家にあった超熟コニャック、IPA、リキュール、日本酒を試してみます。
超熟コニャック(ラニョーサボラン/フォンヴィエイユ No35 43%)
コニャックXOと比べて香りの濃縮を感じる。アルコールも感じるけど、白ブドウの要素も濃くなってると思う。味わいとしては紅茶が濃くなってる。飲み進めていると普段は見えない焼き菓子(フィナンシェ)が出てきた。
IPA(THE ALCHEMIST/Heady Topper)
いつも飲んでいるグラス(写真右)と比べると繊細な香りまで拾えている印象。具体的にはなめし皮とクローブのスパイス。スワリングをするせいか炭酸がどんどん抜けていくのが気になる。
リキュール(金ヶ崎薬草酒造/クレーム ド フランボワーズ)
このグラスの特徴である香りの濃縮が生きている。いつものグラス(写真右)でも濃かったラズベリーの風味が更なる進化を遂げている。アルコール度数が低いせいか濃縮されるはずのアルコール感も気にならない。
日本酒(玉旭酒造/DESPERADO 純米無濾過生原酒)
リーデル大吟醸との比較。正直違いはよく分からない。バナナ系のエステルが濃くなっているような気がするかも…。別の日本酒なら変わるのかなぁ。
まとめ
相性抜群
・超熟コニャック
・リキュール
使い方に注意
・IPA
よく分からん
・日本酒
今回の結果をまとめると上記の通りとなります。超熟コニャック、リキュールは文句なしの相性の良さです。両者ともに香りが強調されていて、従来のグラスよりも美味しく頂けました。
IPAは香りを取るという意味では100点満点なのですが、スワリングの影響もあり炭酸が抜けてしまうのが気になりました。テイスティング用のグラスと併用して、STILLはノージング用に使うというやりかたが正解だと思います。自分が試した範囲ですと、オールドスクールなIPAでは無くヘイジーIPAや現代のウエストコーストIPAと相性が良かったです。詳細な香りが取りにくいフレッシュホップ系のIPAとの相性は特に良く、飲む時には欠かせないものとなってます。
最後に日本酒ですが、これは飲んだものが悪かったと思います。今回検証に用いた玉旭酒造のDESPERADOは、米の旨味がメインで吟醸香が控えめな旨口系です。香りの総量が少ないせいでSTILLの本領が発揮できなかったのではないのかと推察されます。吟醸香が多いタイプの日本酒(醸し人九平次、寒菊など)だと相性がいいような気がするので、機会があったら試してみようと思います。
総評
ウイスキー党はもちろんのこと、リキュール党やブランデー党も買うべきな素晴らしいグラスでした。価格もハンドメイドのものとしてはお手頃なのも素晴らしく、値上げをする前に気になる人は買うべきだと思います(昨今の事情を考えるといつ値上げしてもおかしくない)。ちろっと書きましたがお酒の奥に眠る個性を引き出すグラスなので、色々なお酒の理解を深めるいい機会になりますよ。
ウイスキーグラスの性能を考えると、相性がいいものは「度数落ちまたは加水により度数が低くなった熟成感があるもの」「オールドボトル全般」とかなりニッチなものになってしまいます。ゆえに、STILLというグラスはウイスキー初心者向けではなく、中~上級者向けのグラスということになります。しかし、KYKEYブランドには「AROMA GLASS BASIC」というグラスがあるので問題はないでしょう。
こちらのグラスは「全ての短熟のウイスキー」との相性がいいグラスです。上の写真のようなピートが効いた度数の高い短熟のものとの組み合わせが一番相性がいいと思います。
今からウイスキーを始める人は「AROMA GLASS BASIC」から始めて、弱点である香りが取りにくいところに気がつけるグレードのウイスキーを飲み始めたら、STILLを追加購入するのがいいでしょう。その後はずぶずぶと沼にハマっていくか、そのままステイするかはお任せします。
今回のレビューは以上で終了となります。最後におまけとしてグラスオタク全開のお話を書きましたので、お付き合いいただけますと幸いです。
おまけ
STILLはとあるグラスの上位互換?
STILLで色々と試していた時にずっと思ってたことがあります。「このグラス、エリクサー 1920sブレンダーズグラスの上位互換じゃね?」ということです。
こちらのグラスもSTILLと同様、香りを濃縮するタイプのとなっています。オールドボトルとの相性が特に良く愛用者も多いこのグラスですが、大きな弱点があります。
このグラスすっごい洗いにくいんですよ。洗おうとすると指が奥まで入らなく、ボウルまでスポンジが届かない。普通のグラス用スポンジすら入らないリムの狭さから、キレイに洗うためには専用のスポンジが必要になります。
洗いにくさから使う回数は減っていき、引っ越しの際に知り合いにあげてしまいました。ただ、時々恋しくなるんですよ。唯一無二の香りの濃縮、枯れかけのボトルの蘇生。このグラスにしかできないことがありました。
STILLは1920sブレンダーズグラスの特徴はそのままに、頑張れば洗える形状、薄いリム、グラスの安定感といった優れた点が多数あります。これらの事実から、上位互換と言っても差し支えないでしょう。違いはボウルの大きさ、ステムの長さ、スワリングの楽しさぐらいで気にするほどではありません。STILLというグラスを買って一番嬉しかったのは「1920sブレンダーズグラスへの未練を断ち切れた」ことだったりします。
まだ買っていないグラスオタクの同士よ、1920sブレンダーズグラスがあるのに出番が減ってたらこのグラスを買った方がいいぜ!
私が欲しいグラス
神様が現れて「お前の望むグラスを作ってやろう」と言われたらどんなグラスをお願いするかというお話です。私の望みは「イベントに持っていく用のタッパが低くて、容量が少なく、リムの返しがあるやつ」。簡単な話AROMA GLASS BASICを一回り小さくした感じのやつが欲しいです。
イベントの時には「ロナ パレンカ」を持っていっているのですが、容量が大きいせいで試飲で提供される量だとイマイチ香りを拾いきれない、返しが無いせいで若い子を飲むとアルコールアタックが強調されるという点が気になっています。ということで、新しいウイスキーグラスを作ろうとしている皆さんよろしくお願いします。需要はあるはずです。
昨今のプライベートグラスブームについて
最近様々ところからプライベートグラスが出ています。S蒸留所のUPグラスとかSたにえんのSグラスとかですね。それらは少し値が張るものの、形状のコンセプトは分かりやすく文句はありません。今後「ウイスキーの個性をそのまま味わう」みたいなコンセプトのグラスが出ると思うんですよね。
そのグラスを買う必要はありません。「ウイスキーの個性をそのまま味わう」グラスはもう発売しています。普通のテイスティンググラスがそのようなコンセプトで作られているのです。
その手のグラスで最高の品質を求めるなら「リーデル ソムリエ コニャックXO」を買いましょう。圧倒的なリムの薄さでノイズが軽減されるので、ウイスキーの個性を堪能できます。値段と性能のバランスを考えるなら「木村硝子店 ウイスキーテイスティング 200」がオススメです。
同じコンセプトで上記2つのグラスをコストパフォーマンス(値段とクオリティのバランス)で上回るグラスはまず出てこないと思います。ハンドメイド(手吹き)で凄まじいクオリティのもでワンチャンぐらいですかね。マシンメイドで新しいものは作れないでしょうし、型吹きはリムの薄さでコニャックXOに勝てず、値段でウイスキーテイスティング 200に勝てないでしょう。
おまけも以上で終了となります。ウイスキーは引退ぎみなのでテイスティンググラスのレビューは今後書かないと思いますが、現在IPA用のグラスの研究を進めています。次のグラス記事があるとしたらそちらの結果報告になりますので機会がありましたらよろしくお願いします。
コメント